最近の日本では、人の心や命を軽んずるような出来事が目立ってきています。人の命 より物やお金のほうが大事というような風潮、家族・友人どうしの傷害・殺人事件等が非常に多いように思えます。
これらは物質文明の今日、知識先行教育や学歴偏重の結果アンバランスな人格ができ上ってしまったためです。このことに危機感を抱いた人達が「人間科学」という学問の研究を始めました。
私は10年程前、「世界癌(がん)学会」で九大医学部の井口潔教授(現、名誉教授)に出会い、「人間科学」のお話をうかがいました。先生はモーツァルト曲のピアノ演奏を学会や講演会で披露しておられ、ピアノの練習でミューズ音楽院に足を運ばれるたびに人類の未来を見据えた先生のいろいろなお考えを知ることになりました。
その後、井口先生は日本学術振興会“井口記念人間科学振興基金”を設立され、「人間科学」という分野を研究・啓蒙していらっしゃいます。
「人間科学」とは、“人間とは何ぞや? 物質文明の中で失ってしまった心や感性と言うものを考える”分野で、文化的生物としての人間のあり方またその教育のあるべき姿を問うてゆく学問であります。
人間は生まれながらに感性というものを持っています。感性は先祖から受け継いだもので、クロマニヨン人の壁画に表われているように数万年前にはすでに人間に備わっていたものです。これが継承され子供たちもこれを持って生まれてくるのだと思われます。
井口先生は「生まれてから、その感性をどう誘導していくか」ということを研究しています。
感性は大脳の中に潜在的にあるものですが、それは外からの刺激を受けなければその機能を発揮できません。
せっかく先祖から受け継いで良い潜在状態にある能力をどう引っぱり出してやるかが「人間科学」で言う感性教育です。(ここが知識教育と違うところです。) 音楽と人間科学(2)へ