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パリ番外編1

サムソナイト


Z子の悲劇 ~パリ番外編1~
パリに行くための休暇をとるために普段以上の仕事をしていたZ子とぼくは、前日になってデパートでサムソナイトの機内持込み用ピギーバッグを購入しました。ふたり旅にスーツケースを2つ持っていく必要はないと思って、2つめは小さめのバッグにしようと考えたのです。
Z子とぼくは、それぞれ午後9時頃までに仕事を終え、それから集合して旅の準備を始めました。何しろ、パリまでの航空券とわずかなフランス貨幣以外は、何も準備していなかったものですから・・・。持っていくものについて話し合いながら、旅慣れしているつもりのぼくらは、いつもの要領で荷物をバッグに放り込み、夜中の3時頃におおかたの荷造りを終えました。その日購入したばかりの機内持込み用ピギーバッグには、パスポートと航空券、両替したフランスでの軍資金を詰め込んで、しっかりとロックを架けてみました。

「ダイヤルキーを何番にしようか?」「ジョン・ウェインの誕生日にしようか?」などと、旅行前夜の会話を楽しみながら、新品のピギーバッグにダイヤルセッティングをしようとしていました。考えてみれば、ダイヤル合わせとテストぐらいは、荷物を入れる前にするべきでした。

機内持込み用の貴重品をすべて閉じ込み、ダイヤルナンバーを打ち込んで、あとはダイヤルのセッティングボタンを押せば完成というとき、ボールペンの先で押して終わるはずのセッティングのボタンが、押している途中でフリーズしてしまったのです。どんなに力を入れても中途半端な位置で止まったまま、動かなくなってしまったのです。そして、ダイヤルも全く動かせなくなってしまいました。何と!貴重品を全て詰め込んだ、今日買ったばかりのピギーバッグの鍵が壊れて開かなくなってしまったのです。
カギが開かなくなったピギーバッグの中には、航空券、パスポートのほか旅の必携品全部が入っているのです。ボールペンでは弱いと思い、細めのドライバーでもトライしてみましたが、ビクともしません。このピギーバッグが開かなければ、パリへ旅立つことができません。それどころか、空港の集合場所すら分からないのです。

どうにかしてカギを直すか、最悪の場合、買ったばかりのピギーバッグを壊すしかありません。とはいえ、今は、夜中の3時。バッグを買ったデパートやメーカーは締まっているし、カギの110番だって開いているかどうか? 電話帳を引っぱりだして、24時間営業の「カギの110番」を見つけて、電話で確認した上でカギの開かないピギーバッグを持っていくことにしました。

先ほど買ったばかりのピギーバッグのダイヤルロックは、さすがの「カギの110番」の人も初めてみる新しいタイプのカギだそうで、しくみが分からないので直す方法も分からないと言われました。セッティングボタンを押してみてもやっぱり動かないので、壊れても良いからという条件で、ベンツのボディを人間の力だけで破ることができるというふれこみのスイス製超合金製金属棒でセッティングボタンを力ずくで押し込むという最後の手段を試みることになりました。

お店の人が2人がかりで壁に押し付けたり、万力に固定したりしてずいぶん苦労したあげく、スイス製超合金製金属棒のおかげで、ついにセッティングボタンが動いたのです。セッティングボタンは、一番下まで下がって所定の位置に収まりました。やっとのことでピギーバッグを開けることにこぎつけることができました。しかし、「カギの110番」に支払った修理費は、ぴったり1万円。今日買ったばかりの2万円のピギーバックの修理に1万円は高いと思いましたが、パリ旅行をフイにすることはできませんから・・・。

「カギの110番」から戻ったら、もう6時をまわっていて、出発前日は徹夜にはなってしまいましたが、パリへ旅立つ準備がギリギリで整い、一睡もしないまま空港へと向かったのです。

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