パリ編1
シャルル・ド・ゴール空港
Z子の悲劇 ~パリ→ベニス編(1)~
サンジェルマン・デュプレ教会前のホテル「マディソン」で春のパリを過ごした後、空路ベニスに移動するためZ子とぼくは、滞在中に親しくなったコンシェルジュにタクシーを呼んでもらい、シャルル・ド・ゴール空港へ向いました。前日の夜、「11時のベニス行きに乗るのだけど、何時にホテルを出発すればいいのか?その時間にタクシーを呼んで!」と頼んでおいたのです。「9時半にホテルを出れば充分だよ!タクシーを呼んでおくよ。」と、陽気に答えたコンシェルジュに「おやすみ」を言って別れたのでした。
車窓から見えるパリの風景を目に焼付けつつ、タクシーはホテルを出て45分ほどでシャルル・ド・ゴール空港に到着し、Z子とぼくは真っすぐアリタリア航空のベニス便のチェックイン・カウンターへと向かいました。カウンターで予約のクーポンを出したところ、カウンター嬢が「Too Late ! (遅かったわね!) 国際線は、一時間前にはチェックインを済ませなきゃダメよ。」とキッパリ言われてしまいました。さらに、「どっちにしろ、満席だから乗れないわよ!」と、追い討ちを駆けられ、Z子とぼくは絶体絶命。この瞬間、「このまま、パリで旅行を終えてしまわなければならないのか?」「他の便にトランスファーできるのか?」など、さまざまな思いがぼくの頭の中を廻りました。
「どうする、どうする?」と、取り乱すZ子と、一生懸命落ち着いたふりをして打開策を考えようとするぼくは、搭乗手続きを終了したアリタリア航空ヴェニス便のカウンター前のロビーにポツンと立ち尽くすばかり。「でも、ホテルのコンシェルジュは、30分前にチェックインすればいいって、言ったわよね。」と、Z子がつぶやいても後の祭り。どっちにしろ、コンシェルジュは何の責任もとってくれません。唖然、茫然、頭の中はまっ白け。
やがて、カウンターに「CLOSED」の札が立てられ、Z子もぼくも「一巻の終わり」か、と思ったその時、片付け作業に忙しそうなグランド・ホステスたちのうち、まだ、コンピューターの打ち込みをやっていた年長の女性が、「OK ! ミスター・チョーソカベ、ファーストクラスに2席だけ空席がありますから、急いでゲートに行ってください。」と、恵みの声。喜んでいる間もなくチェックインの手続きを済ませると、その女性がチケットを握ったまま引っ張られるように、Z子とぼくはベニス便のゲートへと走りました。
待ち構えていたスチュアーデスさんに2枚のチケットを渡し、案内されるまま席に着いたとき、Z子とぼくはホッとして、やっと搭乗できた安堵を噛みしめたのです。ただし、満席便のファーストクラスですから同じファーストクラスのエリアとは言え、ぼくは一番前、Z子は後ろの方の席と、離ればなれでベニスへの空の旅を体験することになったのですが、シートベルトに縛られた体でZ子の方を振り向き、目とガッツポーズで喜びを確認し合いました。と言うことで、一時は危機を迎えた旅は続けられることになりました。メデタシ、メデタシ!
そして、生まれて初めて乗った国際線のファーストクラスでは、Z子とぼくが座るはずだったエコノミー・クラスではサービスされない、豪華版の食事をご馳走になりました。