フィレンツェ編3(前編)
クアトロ・アミーチ
Z子の悲劇 ~フィレンツェ編3(前編)~
フィレンツェ滞在での最大の楽しみは、やっぱり食事でしょう。フィレンツェの位置するイタリア中部トスカーナ地方は農産物にも恵まれ、ルネサンス期の領主メディチ家の繁栄のお陰でこの地方で発展した料理も多いのです。ナイフ・フォークを使ったテーブルマナーはフランス料理が家元のように思われていますが、フランスのルイ王朝にナイフ・フォークを伝えたのはメディチ家から嫁いだお姫様だそうですから・・・。また、この地方で有名なワインにキャンティが挙げられますが、キャンティはイタリアで最上級に位置するワインです。
Z子とぼくがサンタマリアノベッラ駅前の「Hotel Ambasciatori(ホテル・アンバシアトリ)」に泊まった旅行でのことです。この日の夕食を「La Carabaccia(ラ・カラバッチャ)」と決めていたぼくたちは、辺りが暗くなった5月初旬の夜8時頃、ホテルを出て人通りのない裏通りを最短コースで「ラ・カラバッチヤ」へ向かっていました。その日は、昼間の観光やショッピングで歩き疲れていたのですが、一番近くて安くて美味しそうな店「ラ・カラバッチャ」にめぼしをつけていたのです。しかし、「疲れたね、歩きたくないね。」などと話しながら歩いている時、最初の角を曲がったところに木々に囲まれたきれいな民家が目に飛び込んできました。「この辺りには不似合いな建物だな!?」と思い近づいてみると、門のところにメニューらしきものが立っているではありませんか。「Quatro Amici(クアトロ・アミーチ)」という名のレストランのようです。外からは、建物の中の様子がまったく見えませんが、ドアを開けて中を覗いて見ると、長い廊下の向こうにレストランらしい風景が広がっています。予定とは違うけど、「歩きたくないから今夜はここでいいか?民家風だし、多分値段も高くはないだろうし・・・」と、今夜の予定を変更することにしました。
メートルディに導かれるまま、長い廊下を通ってテーブルに通されると、席に着くや否やウェルカム・シャンパンとオードブルが運ばれてきて、ウェイター/ウェイトレスの態度もとてもキチンとしていて感じの良いレストランだと気に入りました。ところが、周りを見回すと、他のテーブルの客はほとんどが正装で、華やかなパーティ風のテーブルも多いではありませんか。となりのテーブルでは、キチンとした身なりの2人の給仕が「魚の塩包み焼き」を手際よく10数人の皿に取り分けています。見事なナイフ・フォークさばきに感動しながら、ふと、不安がよぎりました。何しろ、こんな光景はぼくたちの生涯では始めて見るものでしたから・・・。
「もしかしたら、場違いな所へ来てしまったのではないか?」と、心配になったZ子とぼくは、こっそりバッグからガイドブックを取り出し、レストラン・リストのページを開いてみました。すると、「クアトロ・アミーチ」は、一番最初の最高級レストランのページに、あの有名なレストラン「サバティーニ」と並んで載っているではありませんか。貧乏旅行のZ子とぼくは、にわかに落ち着きがなくなりました。「どうする?どうする?お金ないよ!」とZ子が言い出し、「店を出ようか!?」というほどのパニックに陥ってしまいました。「でも、シャンパン飲んじゃったし・・・」。
絶体絶命!Z子の運命やいかに?(つづく)