フィレンツェ編6(後編)
アラ・ヴェッキア・ベトラ(後編)
Z子の悲劇 ~フィレンツェ編6 後編~
ところが、タクシーを降りたところは人通りも車の通りも少なく、殺風景な貧民街(?)といった街並。そして、レストラン=アラ・ヴェッキア・ベトラはと言えば、古ぼけたオンボロビルディングの1階、ドアもなくスダレが架かっているだけの入口、本当に入っても良いものか、躊躇するような店構えなのです。「でも、ここまで来たんだから・・・・」と言うことで思い切って入ってみました。すると、案の定、満員の客はほとんどが屋外労働者風の人ばかり。ウェイターに案内されるまま着いたテーブルは、床が傾いているのかテーブルの足が揃っていないのか、すわりが悪く、ガタガタと音をたてて揺れます。「果たしてマトモな料理が喰えるのだろうか?」と、ぼくが思うほどでした。
が、その心配は、最初のサラダが来た時に一掃されました。山盛りルッコラのサラダにはドレッシングがかかっている様子がなく、さっきのウェイターがオリーブ油とワインビネガーの一体型のビンと一緒に持ってきただけなのです。ウェイターは目の前でスプーンの腹に塩とコショウを振り、フォークでオリーブ油とビネガーを交ぜ合わせ、アッと言う間にドレッシングを作り上げてしまったのです。何を始めるのだろうと思っていたZ子とぼくは、その手さばきの素晴らしさに見とれてしまいました。それをサラダにサッと振りかけ、目の前で第1の皿の完成です。あっ気に取られていると、ウェイターはサラダを各々の皿に取り分けてくれ、イタレリ・ツクセリなのです。ドレッシングの味と言い、サラダとドレッシングの量のバランスと言いパーフェクトなのです。思わず「Bravo」と言うイタリア語が、口をついて出てしまいました。(bravoはぼくの口癖なのですが・・)この先は、言うまでもありません。ミネストローネ、ゴルゴンゾーラのペンネ、アーリオ・オーリオ・ペペロンチーノは、どれをとっても文句のつけようのない絶品だったのです。Z子とぼくは昼からワインを飲んで、至福の時を過ごしたのでした。もちろん、帰りはウェイターにタクシーを予約してもらうことも忘れませんでした。
ミシュランの☆☆☆(三ッ星)は、「どんな苦労をしても、わざわざ食べに行く価値があるレストランに与えられる」と言われていますが、アラ・ヴェッキア・ベトラは星をもらえるような格式の高いレストランではありませんが、「苦労して食べに行って良かった」と、言い切れるレストランでした。Y嬢のたしかな舌に感謝!Y嬢に三ッ星グルメの称号を与えたいと思います。
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